私たちは、「楽園」にすんでいた。
ここは本当に素晴らしい。
空気は綺麗だし、1年じゅういつでも暖かい、また、住みやすい場所もたくさんある。いや、家にこもる必要さえない。何も持たずに、自然の中でねむり、自然の中で暮らすことができるくらいには暖かかったし、特に恐るるべき危険もなかったからだ。
毎日決まった時間には、「使用人」は素晴らしい料理を運んで来て、私たち皆をもてなす。汚くなっているところや、皆が嫌がるところも、すべて綺麗にしてくれた。
「楽園」に一緒にすんでいる大勢の仲間たちも素晴らしかった。喧嘩などはほとんどなかったし、力のある男と、魅力ある女が、最高のバランスをつくっている。どこにいても、笑い声と、穏やかな話声が聞こえるのだった。
昼は家族や恋人と身を寄せあってねむり、素晴らしい料理を食べ、休み、夜はまたねむる。本当にそれだけで良かった。何の不安もなかったし、ここにはすべてがあった。私たちには、何の義務も制約もなく、ただ幸せでいることが許された。
ここは、私たちにとって、本当に「楽園」なのだ。
ここは、私たちにとって、本当に「楽園」なのだ。
「楽園」には、多くの人が訪れた。
ここがどれだけ素晴らしいかを、皆が見に来るのだ。
彼らは、いつも羨ましそうな顔で私たちを見てゆく。中には、何時間もずっと見つめてゆく者もいる。家族と、友人と、恋人と、様々な人々が、様々な顔で、「楽園」に暮らす私たちを見物する。最後には、皆、幸せそうな顔をして帰って行くが、きっとここには入ることができない。何故かはわからないが、そういうことになっているし、そもそも入る気がないのかもしれない。
食事を用意する「使用人」にはいつも語りかけている。「どうしてここへ来ないのか。君も楽園で暮らせばいい」と。しかし、彼はいつも、かすかに微笑み、「楽園」の隅々を綺麗に掃除し、去っていくのだ。どうしてそうしなければいけないのかは、私たちには毛頭わからなかったが、多くの者は、きっとそういうことになっているのだと思うようにしていた。
すべてのものが「楽園」に来ることはきっとできないのだろう。
「楽園」に来るべきものは選ばれ、それ以外のものは、かわいそうだが、外からその様子を眺め、満足する。「楽園」とはそういうものなのかもしれない―――――。
―――――「楽園」を眺める、母親と子供がいた。
「お母さん、可愛いねえ」
「本当ね。みんなとっても綺麗」
「あんな風に自由に飛んでみたいなあ。いいなあ」
「そうね。羨ましい」
「うん。いつか私も、あんな風に、お友達と一緒に空を飛ぶの!」
「ふふ。出来るといいわね」
「うん!」
「でも、こんな小さなところに閉じ込められるのは、ちょっとかわいそうね」
目の前にある巨大な”籠”には、こう書かれていた。―――――「鳥たちの楽園」。
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